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AI半導体が売れても ウェーハ会社の利益が同じように増えないのはなぜか シリコンウェーハから半導体株を読む 第2回

10月10日
読了時間: 9分

「AI向けの半導体が、ものすごく売れている」


そんなニュースを見たら、半導体の材料をつくる会社も好調になると思いますよね。


半導体の土台となるのが、シリコンウェーハです。SUMCOや信越化学がつくる、薄くて丸いシリコンの基板。 その上に細かな回路をつくり、小さく切り分けると、スマートフォンやAIサーバーに使うチップになります。


今回取り上げる300mmウェーハは、直径30センチの基板です。 AIの計算に使うチップや、データを記憶するメモリをつくるために使われます。


AIが広がれば、この基板を使う機会も増えます。


ただし、AI半導体の売上が2倍になったからといって、必要な基板の枚数も、ウェーハ会社の利益も 2倍になるとは限りません。


ここには、三つの理由があります。


① 半導体の売上は、つくる量だけでなく「値段」でも増える。


② 工場で使うウェーハが増えても、手持ちの在庫があれば、すぐには買い増さない。


③ ウェーハが売れ始めても、新工場建設費用が利益を押し下げることがある。


この三つを押さえると、「AIは好調なのに、材料会社の決算は思ったほど良くない」という疑問が解けてきます。


理由1 ) 売上が増える事と 基板を多く使うことは違う


まず、身近な商品で考えてみましょう。


1個100円の商品を100個売ると、売上は1万円です。 値段が200円になれば、100個のままでも売上は2万円になります。


売上は2倍ですが、つくった数は同じ。材料も、同じ商品なら基本的には同じ量です。 これは仕組みを説明するための例で、実際の半導体価格を示したものではありません。


半導体でも、似たことが起きます。性能の高い製品が売れたり、供給不足で値段が上がったりすれば、 つくる量以上に売上が伸びます。


実際に、半導体の受託製造大手TSMCの数字を見てみます。


  • 売上高 米ドル建て:前年同期からの増加率 33.7%増

  • 加工を終えて出荷したウェーハの数量:前年同期からの増加率 16.6%増


売上は約34%増えても、出荷した数量は約17%増でした。 同じ会社、同じ期間でも、 金額と数量の伸びは違うのです。[1]



図1|実際の決算データ
図1|実際の決算データ

TSMC、2026年7月16日発表。数量は異なる大きさのウェーハを12インチ相当に換算したものです。 材料会社から買った未加工の基板の枚数とは異なります。[1]


さらに、技術が進むと、1枚の基板からつくれる量も変わります。


同じ広さの土地でも、小さな建物なら多く建てられますよね。 半導体でも、回路を小さくつくれるようになれば、同じ基板からより多くのチップを取れる場合があります。


メモリなら、同じ1枚から、より多くのデータを記憶できるチップをつくれるようになります。 すると、必要な記憶容量が増えても、基板の枚数は同じ割合では増えません。


もちろん、技術が進むたびに基板が少なくて済むわけではありません。 AI向けのチップは、性能を上げるために大型化することもあります。 大きなチップは1枚から取れる数が少なくなるので、基板を多く必要とします。


つまり見るべきなのは、「売上が何%増えたか」の次に、「どんなチップを、どれだけつくるのか」です。


HBMはウェーハ基板を多く使う。 追い風 でも、TSMCなど生産工場で全体が一斉に増えるわけではない


ここで、AIと一緒によく登場する「HBM」を整理します。


AIの計算を担当するのがGPUです。 しかし、計算が速くても、必要なデータが届くのが遅ければ、GPUは待たされてしまいます。


そこで使うのがHBM。 メモリのチップを重ね、GPUの近くで大量のデータを素早く受け渡しするための記憶装置です。


役割で分けると、次のようになります。


  • GPU:AIサーバーでの主な役割 AIの計算をする

  • HBM:AIサーバーでの主な役割 GPUのそばで、データを素早く受け渡す

  • 通常のDRAM:AIサーバーでの主な役割 サーバーで処理中のデータを一時的に置く

  • NAND:AIサーバーでの主な役割 SSDなどで、データを保存する


HBMもDRAMの仲間ですが、通常のDRAMとはつくり方や構造が違います。 高速にデータを渡すための回路や接続部分が必要なので、同じ記憶容量をつくる場合でも、 ウェーハの負担が大きくなります。


HBMの拡大は、ウェーハ需要を増やす方向に働きます。


ただし、既存の工場を「普通のDRAMをつくる」用途から「HBMをつくる」用途へ切り替えることもあります。 その場合、HBMは増えても、普通のDRAMをつくれる量は減ります。 工場全体で使う基板が、HBMの増加分だけそのまま増えるとは限りません。


ここは、パン屋のオーブンで考えると分かりやすいです。 食パンを焼く時間の一部を、高価な菓子パンに振り替えれば、菓子パンの売上は伸びます。 しかし、オーブンを新しく増やしたわけではありません。


HBMへの切り替えにも、こうした「既存設備の使い方を変える」面があります。 実際の半導体工場では追加設備も必要なので、完全に同じという意味ではありません。


NANDにも別の事情があります。 記憶する部分を縦に増やす技術(TSV、積層など)によって、1枚からつくれる記憶容量が増えます。 AIサーバーのSSD容量が増えても、その分だけ基板の枚数が増えるとは限らないのです。 一方、複数の基板を接合するつくり方もあり、製品の構造によって必要な枚数は変わります。


GPU、HBM、通常のDRAM、NANDをひとまとめにせず、それぞれのつくり方と生産量を確認する必要があります。


理由2 ) 工場で使う基板が増えても 手持ちがあればすぐには買わない


次は、在庫です。


お米の消費が少し増えても、家に十分なお米が残っていれば、すぐに買い足さないことがありますよね。


半導体メーカーも同じです。工場で使うウェーハが増えても、倉庫に手持ちの基板があれば、まずそれを使えます。


例えば、ある工場が月に100枚使っているとします。 倉庫の在庫を20枚使うなら、その月に買うのは80枚で足ります。


その後、在庫を取り崩すのをやめれば、同じ100枚を使う場合でも、100枚買う必要があります。


工場で使う量は同じなのに、購入は80枚から100枚へ、25%増えるわけです。 この数字は説明用の例で、特定企業の実績ではありません。



図2|説明用の例
図2|説明用の例

どちらも工場で使う量は100枚。在庫を使うかどうかで、新しく買う量が変わります。


SUMCOや信越化学の販売に関係するのは、工場で使った量だけではなく、顧客が新しく買った量です。


そのため、AI需要が伸びていても、顧客が在庫を使っている間は、材料会社の販売回復が遅れることがあります。 反対に、顧客が「これからもっと必要になる」と考えて在庫を増やせば、購入が一段と強くなることもあります。


なお、ここでいう在庫は、回路をつくる前のウェーハです。 完成したメモリチップの在庫とは別です。 「メモリが足りない」というニュースだけでは、顧客の倉庫に未加工の基板がどれだけあるかは分かりません。



理由3 ) 基板が売れ始めても 新工場の費用が利益に響く


最後は、材料会社の利益です。


ウェーハを増産するには、工場や設備が必要です。 そのために使ったお金は、通常、工場をつくった年だけの費用にするのではなく、 使う期間に分けて費用として計上します。


これが「減価償却」です。 言葉は難しく見えますが、ここでは「工場や機械の購入費を、毎年少しずつ利益から差し引く仕組み」と考えてください。


新しい工場を使い始めると、この費用が増えます。 工場がまだ十分に売上を上げていなくても、費用は発生します。


すると、ウェーハが売れ始めても、利益はすぐには増えないことがあります。


SUMCOの決算を見ると、この違いが分かります。


  • 売上高:2025年 2,053億円/2026年 2,150億円

  • 営業利益:2025年 74億円の黒字/2026年 63億円の赤字

  • 営業費用に含まれる減価償却:2025年 487億円/2026年 603億円


売上は増えました。一方で、減価償却も増え、営業利益は赤字になっています。[2]


減益の原因がすべて減価償却だった、という意味ではありません。 それでも、「売上が回復したか」と「利益が回復したか」は分けて見る必要があることを示す例です。



図3|実際の決算データ
図3|実際の決算データ

SUMCO、2026年8月6日発表。2025年と2026年の1〜6月比較、単位は億円。[2]


工場の生産が増え、同じ設備から多くのウェーハを売れるようになると、こうした費用を吸収しやすくなります。 投資家が確認したいのは、「工場ができた」ことに加えて、 「その工場が、どれだけ売上と利益を生むようになったか」です。


では今 シリコンウェーハ市場は回復しているのか


ここまで読むと、「AIが伸びても、ウェーハにはあまり関係がないのか」と感じるかもしれません。


そうではありません。 AIはウェーハ需要を支える大きな材料で、足元の資料にも回復が表れています。


業界団体SEMIによると、2026年4〜6月の世界シリコンウェーハ出荷面積は、前年同期比7.4%増でした。 この数字は300mm以外も含む合計で、枚数ではなく面積の統計です。[3]


信越化学は2026年7月の決算説明で、6月の300mmウェーハ出荷が単月で過去最高となったと説明しました。 顧客が在庫を確保しようとする動きも、回復の背景に挙げています。[4]


SUMCOも2026年8月の資料で、AI向けの先端チップやメモリ向けのウェーハが好調で、 数量が増えたと説明しています。[2]


つまり、今の状況を「AIだけが好調で、ウェーハは低迷したまま」と捉えるのは適切ではありません。


見るべきなのは、回復がどこまで広がり、それが材料会社の利益にどれだけつながるかです。


半導体株を見るなら 次に確認するのは、この三つ


AI半導体の好決算を見たら、ウェーハ会社について次の三つを確認してみてください。


① 顧客はウェーハを買い増しているか。


工場で使う量が増えているのか。 在庫を取り崩しているのか、新しく積んでいるのか。これが材料会社の販売を左右します。


② 売れたウェーハから利益が残っているか。


販売量に加え、販売価格と工場の費用を見ます。 売上が回復しても費用が増えていれば、利益回復は遅れます。


③ 株価は、その回復を先に期待していないか。


株価は決算が良くなる前に上がることがあります。 実際に利益が改善しても、市場がもっと大きな改善を期待していれば、株価が下がる場合もあります。


また、信越化学にはウェーハ以外の大きな事業もあります。 ウェーハを中心とするSUMCOと、同じニュースで利益や株価が同じように動くとは限りません。


AI需要が続くことは追い風です。 ただし、AI投資の減速、在庫の積みすぎ、工場の費用増、為替の変化は、利益回復を遅らせる要因になります。


今回覚えておきたいのは、次の流れです。


AI半導体が売れる → 工場でウェーハを使う → 顧客が新しく買う → 材料会社の利益になる。


この間には、製品の値段、つくり方、在庫、工場の費用が入ります。


AIのニュースとSUMCOや信越化学の決算が違って見えるときは、 この流れのどこに差があるのかを探してみてください。 半導体の技術を知ることが、材料会社の業績を読む手がかりになります。


出典


数値の確認日は2026年10月10日。本文の100円の商品とウェーハ100枚の例は、仕組みを説明する仮定です。


- [1] TSMC、2026年7月16日決算資料p.4。対象2026年4〜6月、前年同期比。売上は米ドル建て、数量は加工済みウェーハの12インチ換算出荷。https://investor.tsmc.com/english/quarterly-results/2026/q2


- [2] SUMCO、2026年8月6日決算説明資料pp.10、17。業績は2025年・2026年の1〜6月連結実績。https://ssl4.eir-parts.net/doc/3436/ir_material_for_fiscal_ym20/209846/00.pdf


- [3] SEMI、2026年7月29日発表。対象2026年4〜6月、半導体用シリコンウェーハの全径合計出荷面積。https://www.semi.org/en/semi-press-release/semi-reports-worldwide-silicon-wafer-shipments-increase-7.4-percent-year-on-year-in-q2-2026


- [4] 信越化学、2026年7月24日決算説明電話会議要旨p.3、掲載7月28日。出荷動向と在庫確保についての会社説明。https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2026/07/20260724_summary_J.pdf


技術の詳しい比較、メモリの最新決算、試算条件は別添の深掘り資料に整理しています。 本稿の説明は目標株価や特定銘柄の売買判断を示すものではありません。


 
 
 

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